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けっとうじょう

決闘場

岡本 かの子

「ペン」1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,298 字 · 23 页

青空文庫

自分の即興を逆にこすられて、彼女はじっとして居られなかった。精一杯の金切声で叫んだ。

――止まれ、あんた達は何故私の言う通り決闘をしないのです。

踊ることを止めたジョーンはむきになって抗議した。

――決闘する理由が無いんだ。

――理由? 理由が必要なの、あらそお、一体昔の決闘って、どんな理由でやったのだっけ。

アイリスは急に行手を塞がれたように意慾が突然押えられて、しょげ返った。アイリスは音なしくなって決闘の理由を尋ねた。そこでワルトンは口を入れた。彼は唾を呑んで自分のしゃべり出すきっかけを待っていたのだ。

――公衆の面前で自分の名誉を傷付けた者に対し、それから……ネルソンのように女の奪い合いで……。

不意におのおのの体内で何か重い塊りがどしんと落ちたような気がした。現にその音が耳の中に鳴り渡ったようであった。その不意の不思議な感覚に向って三人の全精神が引き込まれた。そこで三人は冷やかな沈黙に落ちた。魂の底を突き抜けて虚無の中にまで沈んだような、脱力の沈黙であった。茫漠とした沈黙であった。其処から一番早く這い上ったアイリスではあったが、今は少しの感情の負担にも堪えられそうも無い程脳が疲れて居た。