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きしゃははしる

汽車は走る

小川 未明

「日本の子供」1941(昭和16)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,849 字 · 8 页

青空文庫

かよ子は、歩きながら、まだ見ぬ都会のことを考えていました。これから二、三年勉強にいく、そして、朝晩いっしょに暮らさなければならぬ従兄や、従妹のことを――。

だが、四、五日の後には、彼女は、南へ南へと走っている汽車の中に、腰かけていたのでした。

山を一つ越すと、すでに桜の花は満開でした。ある小さな駅にさしかかる前、桜の木のある土手で四、五人の工夫が、並んでつるはしを振り上げて線路を直していました。すこし離れて、監督らしい役人が、茶色の帽子を被り、ゲートルを巻いて、桜の木の下に立って見守っていたのです。その目から口もとへかけて、柔和な顔つきが、どこかお父さんに似ているように思いました。しかも、洋服のボタンが一つ取れて、ひじのあたりが破れている具合までが、無頓着で、直してあげるといってもめんどうくさがる、お父さんのようすを彷彿させて、気の毒のようにも、慕わしいようにも感じられて、

「いまごろ、お父さんは、お家でなにをしていらっしゃるだろう。」と、しぜんと目に、熱い涙がにじむのでした。

昼過ぎには、どの山々も、うしろに遠くなって、故郷をはるばると離れたという心持ちがしました。