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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

私は思わず飛び上がった。身の毛の慄立つ思いをしながら死骸の側に彳んだ。

「昨夜こいつがこの俺を餌食にしようと襲って来たのを、例の眼に見えない恩人が毒矢で射殺してくれたのだろう」

私の心は感謝の念ではち切れそうに思われた。そして私はどんなことをしてもその恩人を発見だして思うさま感謝を捧げないことにはどうにも気がすまなく思われて来た。私は毒矢を抜き取って仔細にそれを調べて見た。土人の使う弓矢である。鏃の先には飴色をした毒液がたっぷり塗りつけてある。記念のためにその弓の矢を私は大事に手に持って先へ的なしに進んで行った。昨日のように雑草の中に一筋径が出来ている。朝風が止むと林の中はまた音もなく静まり返って陽の光さえ幽かになった。草の丈は益※(二の字点、1-2-22)高くなる。喬木はいよいよ生い茂ってどこで尽きるとも想像がつかない。今の私の境地ほど寂しい境地はないだろう。しかし私は私を守る例の恩人が絶えずどこかで見張っていてくれると思うので寂しくも恐ろしくも思わなかった。私は私の恩人についていろいろ想像を廻らして見た。毒矢を使う上からはこの島の土人に相違ない。