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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

で今吾らは伝説通りロブノール湖に浮いている。奇蹟があらわれるに違いない」

老人は厳かに云い放すとじっと湖水を眺めやった。

冬の真昼の陽に輝いて、周囲一里ほどの湖は波穏かに澄んでいる。空を行く雲も鳥影も鏡のように映って見え、日光を吸って水の中は黄金のように輝いている。

老人は二つの箱を出して、湖水の水を注ぎかけた。そして大神を讃え出した。

「アラ、アラ、イル……」と熱心に。

動くともない湖水の水がその時渦を巻き出した。渦の中心に船がある。船が急速に廻り出した。と、砂山の一方の岸が見る見る崩れてその跡へ洞窟のような穴があいた。水がその洞へ流れ込む。いつしか船も流れ込んだ。忽然と四辺が暗くなり一筋の陽の光も見えなくなった。エルビーが私に縋りつく。老人は闇の中で祈っている。

「アラ、アラ、アラ、アラ、アラ、アラ、イル……」

船はずんずん流れて行く、地下の水道を矢のように……(備忘録下略)

九

「張の姿が見えないぞ!」

朝早くレザールが叫び出した。マハラヤナ博士もラシイヌもその声に驚いて飛び起きた。沙漠の暁の薄光が天幕の中へ射している。彼らは真っ先に球を納れた鉄の手箱をさがしたが、その影さえも見えなかった。