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さばくのこと
沙漠の古都
国枝 史郎
「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页
ただ紫禁城の内苑に、今を盛りの芍薬の花が黄に紅に咲いているばかり。大総統邸の謁見室に、わずかに置かれた鉢植えの薔薇さえ、その色も艶も萎れていた。
中央停車場に程近い燕楽街の十番地に、木立の青葉に蔽われて巍然と聳えている燕楽ホテルの、三階の一室に久しい前から逗留している客があった。
客は男女の二人であったが、男の方は、その顔立ちから、南方支那の産まれと覚しい三十歳足らずの貴公子で、起居振る舞いに威厳があった。しかるに一方女の方は、東洋人には相違ないが、支那の産まれとは思われない。むしろ近東土耳古辺の貴婦人のような容貌で、態度はきわめて優美ではあるが、北京の生活に慣れないと見えてどこかにギゴチないところがある。口さがないホテルの使童達は奇妙な取り合わせの二人を評して、広東産の鶏と土耳古産まれの孔雀とを交接せたようだと云うのであった。
二人は大変仲がよくて、室にいる時も一緒にいるし戸外へ出る時も一緒に出た。しかしおおかたは室に籠もって相談事でもしているらしく、室の錠はいつもおろされていた。
この頃北京は物騒であった。政府の高官顕職が頻々として暗殺された。