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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

は、人波の中に消えて行った。

しかも翌日彼の姿は屍骸となって皮肉にも警務庁の玄関に捨ててあった。屍骸には一つの傷もない。圧殺したような気振りもない。と云って毒殺の痕跡もなく、自殺したらしい証拠もない。ただそれは一個の屍体であった。傷がないばかりかその屍骸は掠奪されてもいなかった。官服はもちろん懐中の金も一文も盗まれてはいなかった。そして屍骸の死に顔には「驚き」の表情はあったけれども「無念」の表情は少しもない。

こういう不思議な殺され方で大道へ屍骸を晒らした者は班長ばかりではないのであった。先刻も云った通り政府筋の高位顕官が殺されたのみならず南方は広東でも民党の有力者が殺された。そうかと思うと北方では、張作霖の将士が殺された。

誰も彼も全く同一の、不思議な殺され方で死ぬのであった。すなわち眼に見えない何者かが、眼に見えない人の呼ぶ方へ、眼に見えない力で引っ張って行く。そして行衛が失われる。そして翌日は九分九厘まで大道へ屍骸を晒らすのであった。

こういう奇怪の殺人が、頻々と行われるそのうちに、北京童の口からして次のような詩がうたわれるようになった。

古木天を侵して日已に沈む