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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
丁度ボルネオの沿岸を航行していた船の若い店員に手紙と電報で事情の経緯を簡単に述べ、あらためて、私が仲に立つ旨を云い遣ると、店員からは案外喜んだ承諾の返事が来て、但、いま船は暹羅の塩魚を蘭領印度に運ぶために船をチャーターされているから、船も帰せないし、自分も脱けられない。新嘉坡なら都合出来る。見物がてら、ぜひそこへ来て貰い度いと、寧ろ向うから懇請するような文意でもあった。
私は娘にはああは約束したが、たかだか台湾の基隆か、せめて香港程度までであろうと予想していた。そこなら南洋行きの基点ではあり、双方好都合である。新嘉坡となると、ちょっと外遊するぐらいの心支度をしなければならない。
――少し当惑しているとき思いの外力になったのは叔母である。娘のとき藩侯夫人の女秘書のようなことをして、藩侯夫妻が欧洲の公使に赴任するとき伴われ、それから帰りには世界の国々をも廻って来た女だけに、自分の畑へ水を引くように、私を励ました。
「あんたも一遍そのくらいのところへ行っていらっしゃい。すると世間も広くなって、もっと私と話が合うようになりますから」
それから、女二人の旅券だの船だの信用状だのを、自分一人で掻き込むようにして埒を開け、神戸まで見送って呉れた。