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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

「ともかく、私が日本を出発するときの気慨は大変なものでしたよ。白金巾の洋傘に、見よ大鵬の志を、図南の翼を、などと書きましてね。それを振り翳したりなんかしましてね……今から思えば恥かしいようなもので、は、は、は、……」

そしてお茶の代りにビールを啜りながら、扇を使っていた中老の社長は感慨深そうに、海を見詰めていたが、

「人間の行き道というものは、自分で自分のことが判らんものですな。僕のその時分の初志は、どこか南洋の孤島を見付けて、理想的な詩の国を建設しようとしたにあったのですが……だんだん現実に触れて見ると、まずその智識や準備をということになり、次には自分はもう出来ないから、それに似たような考えの人に、折角貯えた自分の智識を与えようということになり、それが、職業化すると、単なる事務に化してしまいます」

中老人は私達をじろじろ眺めて、

「普通の人にならこんな愚痴は云わないで、ただ磊落に笑っているだけですが、判って下さりそうな内地の若い方を見ると、つい喋りたくなるのです。あなた方のお年頃じゃ判りますまいが、人間は幾つになっても中学生のところは遺っています」