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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
社長は、「ある――大いにある」と怒鳴ったが、誰も酔いの上の気焔と思って相手にしない。社長は口を噤んで仕舞った。
逆巻く濤のように、梢や枝葉を空に振り乱して荒れ狂っている原始林の中を整頓して、護謨の植林がある。青臭い厚ぼったいゴムの匂いがする。白紫色に華やぎ始めた朝の光線が当って、閃く樹皮は螺線状の溝に傷けられ、溝の終りの口は小壺を銜えて樹液を落している。揃って育児院の子供等が、朝の含嗽をさせられているようでもある。馬来人や支那人が働いている。
「僕等は正規の計劃の外、郷愁が起る毎に、この土に護謨の苗木を、特に一列一列植えるのです。妄念を深く土中に埋めるのです」
その苗木の列には、或は銀座通とか、日比谷とか、或は植主の生地でもあろうか、福岡県――郡――村とか書いた建札がしてあった。
若い経営主は、努めて何気なくいうのだが、娘は堪まらなそうに、涙をぽたぽたと零して、急いでハンケチを出した。
中老の社長は、こういう普通の感傷を珍らしいように眺め、私に云った。
「どうです。あなた方も、紀念に一本ずつ植えて行っては」
護謨園の中を通っている水渠から丸木船を出して、一つの川へ出た。