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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

ジョホール河の支流の一つだという。大きな歯朶とか蔓草で暗い洞陰を作っている河岸から、少し岐れて、流れの中に岩石がある。

「あすこによく鰐の奴が、背中を干しているのだが、……」と事務員の一人が指したが、そのすぐあと、艫の方にいた事務員がいった。

「こっちこっち、あすこにいます」

濁った流れの中に、黒っぽいものが、渦を水に曳いて動くのが見えた。また、その周囲にそれも生きものが泳ぐのかと思われるほどの微かな小さい渦が見える。

「は は は 子供を連れとる」

私の気持ちはというと、この原始の自然があまりに、私たちの自然と感じ慣れているものより差違があり、この現実が却って、百貨店の催しものの、造り庭のように見え、この南洋風景図の背景の前に、鰐がいるのは当然の趣向に見え、もう少し脅えたい気持ちをさえ自分に促した。鰐に向ける銃声の方が本当の鰐に対するより却って私たちを驚かした。鰐は影を没した。

「鉄砲の音は痛快ね」と娘はいって、しきりに当もなく発砲して貰った。

「あなた方内地の女性に向って、ふだん考え溜めていたことを、話し出せそうな緒口が見つかったようになって、お訣れするのは惜しいものです」