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かわみずのはなし
河水の話
小川 未明
「早稲田文学」1924(大正13)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,668 字 · 8 页
どうかして、すこし体を休めたいと思っていましたが、一日として、その暇がありませんので、はやく、按摩の手からのがれて、どこかへ身を隠して、ぐっすりと眠りたいと思いました。けれど、按摩は、私がなくっては、ちっとも歩けませんので、どこへいくにも私をつれていきました。私の体は、日夜の過労のために、だんだんやせていきました。私は逃げ出す機会を、待っていました。ところが、今日、ちょうど橋の上で、按摩のげたの鼻緒がゆるみました。按摩は、橋の欄干に私の体をもたせかけて、げたの鼻緒をしめていました。私は、このときと思って、するすると欄干から下へ、ぬけ落ちたのであります……。」と、物語りました。
この話を、河水は、黙って、聞いていました。そばで、バナナの皮も、聞いていたのです。
「おまえさんは、水の上へ落ちるということがわからなかったか? 俺たちはこれから、どこへいくかわからないのだ。」と、河水はいいました。
バナナは、いま、うす暗いところを通ったが、あすこは、橋のかかっている下であったのかと思いかえしました。
「私は、どこへ落ちても、按摩に、休みなく使われている境遇よりは、ましだと思いました。