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かわはぜ

河沙魚

林 芙美子

「人間」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,653 字 · 24 页

青空文庫

器量のいい女ではなかったけれども、餅のようにしんなりした肌をしていた。よく光る眼をしていた。眉は薄く、顔つきもまんまるだったが、茶色の眼だけは美しかった。髪も赤っ毛で縮れていた。K町の実科女学校に行っている頃、与平は千穂子にたびたび道で出逢った。ちっとも目立たない娘であった。そうした無関心でいた娘が、隆吉の嫁になって来てから、今日に到るまでの事を考えると、与平は偶然な運命と云うものを妙なものだと思った。深酒に酔って、しばらくごうごうといびきをたてて眠ると、夜中になって、与平は本能的に何かを求めた。暗がりの中で、まつが眼を覚ましていようといまいと、与平はかまっていられないのだ。考える事と、行動力は別々であった。皮膚を一皮むいてしまいたいような熱っぽい感じなのである。一日一日罪を贖ってゆく感じだった。夜になると、千穂子へ対する哀れさ不憫さの愛が頂点に達してゆくのだった。昼間、決断力が強くなっている日ほど、夜になると、不逞きわまる与平の想像がせきを切って流れて行った。相手が動物になってしまうと、もう、与平にとって、哀れでも不憫でもなくなる。意識はひどくさえざえとして来て、自分で自分がしまいには不愉快になって来るのだ。