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かわはぜ

河沙魚

林 芙美子

「人間」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,653 字 · 24 页

青空文庫

自分の寝床へ戻って来ると、息子へ対してしみじみと自責の念が湧き、千穂子と云う女が厭になって来るのであった。千穂子に限らず、あらゆる人間が厭になって来るのであった。その厭だと思う気持ちが、前よりもいっそう人づきあいの悪い老人になり、千穂子が荒川区のある産院に子供を産みに行ってからは、与平は釣りばかりして暮していた。釣りをしている時だけが愉しみであった。与平だけでは二人の子供のめんどうは見られないので、千穂子は与平に頼んで、葛飾にある、自分の実家の方に二人の子供をあずけた。母と姉とが、このごろ野菜の闇屋になって暮していた。姉の富佐子は、結婚していたけれど、良人が日華事変の当時出征して戦死してからと云うもの、勝気で男まさりなところから、子供のないままに、野菜荷をかついで東京の町々へ売りに行って、いまでは小金も少しは貯め込んでいた。野菜がない時は、静岡まで蜜柑を買いに行ったり、信州までリンゴを買いに行ったりした。終戦になってからも、ずっと商売はつづけていた。男の運び屋のように、たくさんの荷を背負っては来なかったが、リンゴも三度に一度は取りあげられると、浮ぶ瀬がないので、味噌とか、ゴマのようなものを混ぜて買って来ては、結構利潤がのぼっていた。