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うたかたのき

泡沫の記

久生 十蘭

(ルウドイヒ二世と人工楽園)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,889 字 · 26 页

青空文庫

ほかの三つの城とおなじように、わずかの侍僕のほか、この十年の間、誰一人(ゾフィーエ嬢さえもが)立入ることを許されなかった、寂然たる岩道を踏んで、城のあるほうへ上って行った。

五分ほどのぼると、扶壁のついた暗い入口に行きあたった。それは輝くように磨きあげた黒大理石の壮麗な門で、アーチの上の※(「木+眉」、第3水準1-85-86)に、銀でつぎのような言葉が象嵌されてあった。

もしこの地上に楽園があるなら、それはここだけ――それはここだけ――それはここだけ

門を入ると、そのむこうは七メートルほどの高さの岩の段丘で、丸い池のそばに半円形の四阿のようなものがあった。一方だけが吹きぬけになり、まわりの壁には、それぞれ微妙な差異で彎曲した鏡が張りつめてあるので、池のそばにある小さな橄欖の繁みが、鏡の面の上で奇妙に拡大され、無限に照応しあうので、印度のジャングルの中にいるような錯覚を起させる。風景というよりは、亜剌比亜模様といったようなぐあいに、ふしぎな図柄を織出しているので、われわれが自然の風致に倦怠を感じる、その種の退屈さはまったくなかった。

鏡の壁の前にボッティチェリの「ヴィナスの誕生」