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なきんぼうのはなし

泣きんぼうの話

小川 未明

「時事新報」1922(大正11)年8月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,184 字 · 5 页

青空文庫

ちょうど、そのとき、だれも通らない往来を、あちらから、男が、自転車に乗ってやってきました。

おばあさんは、子供をすかすために、

「もし、もし、この泣く子をつれていってください。」と、おばあさんはいいました。

「よしきた。さんざ、あっちの野原へいって泣くだ。」と、男は、ひょいと泣く子を抱きあげると、おばあさんの止めるまもなく、さっさと、あちらの野原の方へ走っていきました。

男は、自転車に、泣きんぼうを乗せて、広い野原の真ん中へつれていって降ろしました。

「さあ、ここでうんと泣くんだ。そうしたら、黙るだろう。」と、男はたった独り、子供を野原の真ん中に残して、自分は、自転車に乗って、また、どこへとなく走っていってしまいました。

子供は、野原の真ん中で、大きな声を出して泣きました。けれど、だれも、その泣き声を聞きつけるものはなかったのです。太陽と雲とが、この声を聞きつけて、びっくりしました。そして、じっと下を見つめていました。

「ああ、かわいそうに、あの子を花にしてやれ。」と、太陽は、独りでいいました。

このとき、おばあさんが、とぼとぼと小径を探しながら、野原へ歩いてきました。