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でいたんちそうわ

泥炭地双話

中谷 宇吉郎

美しき泥炭地「科学と芸術」1946(昭和21)年3月<br>泥炭地の物理「農業朝日」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,790 字 · 12 页

青空文庫

その土黄色にも沢山の白が雑っている。この白の勝った土黄色と、名も無い雑草どもの茶色との混淆が、晩秋の泥炭地帯の草原を特徴づける基調の色である。眼に立つ色ではないが、人の心を惹く美しさである。それは手近に譬えるものがない独特の色彩であって、正倉院に秘められている纐纈染の色くらいが、これに比さるべきものであろう。

こういう色彩が、強く人の心を惹くのは、それがこの北国の冬をひかえた空の特殊の光と、よく調和しているためかもしれない。しかしそれよりも、もっと人間の生命に直接関係した理由があるのであろう。それは土地の乾く喜びとでも言うべきものが、蔭の深いところで働いているためではなかろうか。

雪国の遅い春を待ち佗びる人々にのみ、春先の道の白く乾く歓びが感ぜられるものならば、夏の間中一足ごとにその足跡に水の浸み出る土地が、ふかふかと乾いて来る歓びが、晩秋の泥炭地帯の美の一つの根源をなしているのかもしれない。雪国の道が白く乾く晩春は、間もなく陽光が燦々と若葉の上に降る北国の初夏につづく。しかしようやくにして水の引いた泥炭地帯の晩秋は、この地方に特有な烈しい吹雪をすぐ間近に待つばかりである。