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りゅうせんスパイ
流線間諜
海野 十三
「つはもの」1934(昭和9)年~1935(昭和10)年頃
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,982 字 · 70 页
「ええ、ようござんすとも。……では、出して来ましょう」
そういって大江山課長は、一人離れて、屍体の方に近づいた。そして跼んで、なにかゴソゴソやっていたが、なかなか立ち上ろうとしなかった。そのうちに、課長は不審そうな面持で一同をジロリと眺めまわし、
「ああ……誰かこの手提の中から時計印の燐寸を持って行きやしないか」
「燐寸ですって?……いいえ」
「燐寸は先刻収ったままですよ」
「誰も持っていった者がない!……さては……やられたッ」
やられたッ! と大江山課長が叫んだので、立ち並んだ検察隊は俄かにどよめいた。
「帆村君、燐寸が見えない。これは中々の事件らしいぞ」
流石事件の場数を経てきた捜査課長だけあって、ここへ来て始めて事件の重大性を悟ったのだった。帆村は別に驚いた顔もしていなかった。
「やっぱり、そうでしたか」
「そうだったとは……。君は何か心当りがあるのかネ」
「イヤさっき向うの飾窓のところに、一人の身体の大きな上品な紳士が、一匹のポケット猿を抱いて立ってみていましたがネ。そのうちにどうした機勢かそのポケット猿がヒラリと下に飛び下りて逃げだしたんです。そしてそこにある婦人の屍体の上をチョロチョロと渡ってゆくので警官が驚いて追払おうとすると、そこへ紳士が飛び出していって素早く捕えて鄭重に詫言をいって猿を連れてゆきました