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あさまふんかこう

浅間噴火口

豊島 与志雄

「文芸春秋」1938(昭和13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,938 字 · 24 页

青空文庫

」と正枝は考えてみる。

一年ほど前に李は春日荘に来たのである。

室をお借りしたいという人が……との女中の取次に、正枝が出て行ってみると、学生服の髪の長い青年が、胸のところに帽子を両手で持って、玄関の真中につっ立っていた。正枝は彼を玄関の横手の椅子に招じて、そこで、如何にも春日荘風な応対がはじまった。

「学校に通っておいでになりますの。」

「そうです。」

「学校はどちらの……。」

「明治大学の法科です。」

「お国は……。」

「朝鮮です。」

そして彼は、毛筆で氏名だけ記入した小さな名刺を差出した。美事な筆蹟で李永泰としてあった。

正枝は改めて相手を眺めた。眉目のくっきりとした白皙の秀才型の顔に、どこかのびやかな而も野性的な気味が滞っていた。言葉もはっきりしていた。正枝は暫く黙っていたが、やはりいつもの形式通りに押し通した。

「あの、どなたか、こちらを紹介なすった方がおありですか。」

「人から聞いて来ました。」

「私共では大抵、どなたかの紹介がある方にお願いしていますので……。」

「紹介はありません。学校の紹介ならいつでも貰って来ます。」

「いえ、それには及びませんけれど……。