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あさまふんかこう
浅間噴火口
豊島 与志雄
「文芸春秋」1938(昭和13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,938 字 · 24 页
学絞を出た勤め人には自炊もよかろうが、勉強中の学生には自炊は勧むべきでないということに、正枝は特別の理論を持っていた。それらのことがみな、半島出身者という一事にこじつけられたらしいのである。そこで正枝は改めて、自説を繰返し述べて李を納得させ、その上で初めて、空いてる室を見せた。室は二つ空いていた。李は廊下の端の室を選び、正枝の承諾を強奪するようにして、早速その翌々日引越してきた。
前のアパートが気に入らない理由は、彼の云うところに依れば、毎夜遅く家の前で支那ソバ屋が悲しい笛を鳴らすこと、隣室に喧嘩ばかりする夫婦者がいること、独り者の若い女が多くて洗面所が穢いこと、女中たちが彼のことを李さんと云わずに李永さんと半端な云い方をすること、などであった。
彼は自ら云った通り、或は自炊したり或は外で食事をしたりした。交友は僅からしく、起居は静かで、始終読書に耽っていた。時々ひどく酩酊して帰ることがあった。人前をはにかむことなく、正枝や女中たちともすぐに馴れ親しんだ。厚顔と無邪気とを一緒にした率直さというものがあるとすれば、そういう率直の感銘を人に与えた。正枝を「おばさん」