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うかぶひこうとう

浮かぶ飛行島

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 124,009 字 · 249 页

青空文庫

そこへつけこんで、相手の巨漢は、むずと組みついてきた。

川上機関大尉は、舷に押しつけられてしまった。大した力の相手だった。川上は懸命に、相手の胸許にこっちの頭をつけて、押し潰されまいと耐えているが、相手は勝ち誇ったように、いよいよぐんぐん押しつける。

川上機関大尉の武運は、眼に見えて悪くなった。そうでなくとも、ここ連日の苦闘と空腹とに、かなり疲れている川上機関大尉だった。はりきった牡牛のような英国下士官とは、とてもまともな力くらべはできまいと思われた。

そのとき、向こうの方で、あわただしく集合喇叭が鳴った。さっきの呼笛を聞きつけて、警備班が出動をはじめたらしい。早くも奥の通路から、入りみだれた靴音が聞えてきた。こうなっては、わが川上機関大尉がいかに勇猛であるといっても、敵勢を押しかえすことは、まず困難ではないかと思われた。

壮図はついに空しく、わが大勇士川上機関大尉は飛行島の下甲板に散るのであろうか。

もしそんなことがあれば、いま組立鉄骨の間に病体をしばりつけて、ひたすら彼のかえりを待ちわびているはずの杉田二等水兵は、どうなるであろうか。

このときわが勇士の様子をみるなれば、彼は、猛牛のごとき敵の下士官とがっちり組みあったまま、一、二、三、四としずかに呼吸をかぞえていた。