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うかぶひこうとう

浮かぶ飛行島

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 124,009 字 · 249 页

青空文庫

それからは、いくど双眼鏡を向けてみても、もうふたたびその顔は入ってこなかったのである。

「ああ――」

と長谷部大尉は双眼鏡をおろして、嘆息した。

(あの頭に繃帯して、こっちを覗いていた男は、川上の顔のように思ったが、気の迷いだったろうか)

まさか川上機関大尉が、あのような労働者アパートの男女の中にまじっているとは、ちょっと考えられない。

「――どうも分からない」

大尉は吐きだすように独言をいった。

脱艦兵

軍艦明石は、ぐんぐん船あしを早めてゆく。

南方に遠ざかる飛行島を、長谷部大尉は胸もはりさける思いで、じっと見送った。

川上機関大尉の失踪事件は、こうして、未解決のまま、よくない帳簿の上に永く記録せられることになったのだ。

飛行島の影は、謎を包んだまま、ずんずん小さくなってゆく。もうなんとも手の出しようがない。

そのときであった。

「当直将校!」

大きな水兵がばたばたと駈けてきて、さっと挙手の礼をした。大辻二等水兵だった。彼の顔には、ただならぬ緊張の色が浮かんでいる。

「おう、なにか」

「杉田二等水兵の姿が見えません。私はしゃべりたくないのでありますが、当直将校にはおとどけしておきます」