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よくそう
浴槽
大坪 砂男
「小説の泉」1950(昭和25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,214 字 · 9 页
東京から来た人達は苦笑してたほどです。
で、その日は、練習場に競技会があったものですからお客さん達はみんな出払ってしまい、宿は午後中、がらんとしていました。わたしはその間に掃除を済まし、居残りの巡査と話してるのにも厭きて、そろそろ風呂の湯加減でも見ておこうかと、鍵を持って廊下を渡って行ったんですが……。
この賓客用浴場は、戦争前にC殿下が登山に来られるというので、叔父は大いに感激して新築した物です。何でもその時は浴槽の下にわざわざ東京から取寄せた大タオルを敷きつめたなんて笑い話が残ってるぐらいだから、えらい騒ぎだったらしい。殿下も妙な物が沈んでるなと気味が悪かったことでしょう。
奥座敷から北の方へ二百坪ほど地面を均して、その真中にぽつんと浴場がたっている。渡り廊下は両側壁造りで明り窓がとってあるだけです。それに、叔父としては記念館なみに心得て、普段は人を入れないように廊下の入口と浴室と二個処に鍵がかけてあった」
「しかも、あたり一面は雪の原と。条件は揃っている」
「わたしは扉を二つも開いて脱衣室にはいりましたが、むろん何の異状もありはしない。朝の御入浴のあと綺麗に拭き掃除したまんまです。