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よくそう

浴槽

大坪 砂男

「小説の泉」1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,214 字 · 9 页

青空文庫

そこでわたしは褌ひとつになって仕切りのガラス戸を明けると、窓が閉めきってあるから湯気が立ちこめていて、陽射しがもやもやした縞模様をつくっていました。

浴槽に手を入れてみると少し熱い。手桶に五六ぱい流しといて、樋の水を引きながら湯かき棒で掻回そうとした時です。棒の先にぬらりと黒い物が絡んできた。と、それに続いて、大きな白い影がゆらりと動いた。わたしはどきっと反射的に棒を突出したら、ぐんなりした手応えと一緒に、その白い物が回転して、とたんに人の顔がすっと浮上った。

立ち竦むというのはあんな時のことでしょう。湯気の漂う浴槽から若い女の真っ白い顔がパーマの髪を乱して黒い目を見開いたっきり、まるで、わたしを睨んでいるよう。

横っ飛びに逃出して、褌ひとつのまま巡査の控室へ駈込んだのは醜態でした。こんな姿を誰かに見つかりでもしたら事は穏便に済まなかったところです。

年配の私服が二人、慌てるわたしを宥めて、ともかく浴室へ引返した。そこで死体を引上げる段になったのですが、何しろ温泉づけだから肌が温い。わたしの冷きった体に抱いた感じは生きてるような、それがだらりと絡んでくるような、とても奇妙な興奮を覚えました。