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かいりゅう
海流
宮本 百合子
「文芸春秋」1937(昭和12)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,977 字 · 72 页
「ここにいる以上ミス・ソーヤーに睨まれたら損よ。たった四十分じゃありませんか」
「……だから、あなた早く行っていらっしゃいって云うのに――」
「私またきかれたら何て返事したらいいの? あなたの行かない理由さえきかして呉れれば私一人でだって行くわ」
短い沈黙の後、戸のこっち側で聞いていてさえその瞬間杉の小じんまりした顔がパッと赧らんだのがわかるような調子で云った。
「あたし、あんな礼拝、ちっとも霊感がないから厭になっちゃったの。わかった? わかったら行ってよ」
「――困ったひとねえ」
霊感という、よく説教の中にくりかえされるつかまえどころのない一言が逆な功を奏して、飯田は悄気たような呟きをのこして行ってしまった。枕の上へ頭をおとして天井を眺めながら聴いていた宏子の口元がおかしそうにゆるんだ。
形式的にノックして、ドアが勢よく開いた。
「聞いた?」
杉が、目鼻だちのちんまりとした善良な顔に、自分の思いつきが成功したのさえいやだ、という表情を泛べて宏子の寝台の横へ来た。
「何てうるさいんでしょう、ひとのことまで」
「大変うまく行ったじゃないの」
「そうかしら」
笑いもせず杉は、