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かいりゅう
海流
宮本 百合子
「文芸春秋」1937(昭和12)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,977 字 · 72 页
「人間の理窟って、考え出されたようなところがある。絶対じゃないんだもの」
「――変だわ、順ちゃんの考え方、変だわ。目的だの意味だのがちがえばちがうじゃないの」
宏子は、彼女の及ぶ限り現実的な例で、順二郎のそういう実際の生活関係から物事を抽象してしまって考える傾向からひっぱり出そうとした。順二郎は従順であるが、宏子は愕然とさせる執拗さをもっている。今また彼が僕として考えて云々というのをきくと、再びその危険が宏子にひしひしと感じられるのであった。
「ね、順ちゃん、あなた、誰かしっかりした友達ないの? 何でも話せる友達ってないの? そういう人がいると思うなあ」
宏子がそう云っているとき、女中が来て、順二郎を階下へよんだ。思ったより手間がかかって書斎へ戻って来た。
「何だったの?」
「母様が、姉ちゃんと何話してるって――」
「…………」
宏子はいやな顔をした。
「姉ちゃんと話したこと、みんな聞かせろって……」
「そいであなた何て云ったの?」
「僕たち、正しいこと話してるんだから、誰にかくす必要もないと思う」
宏子はやや暫く黙っていた。
「とにかく順ちゃんは一風あるわ」
順二郎がほんとの友達というものを持っていないように思える、その原因もこんなところと関係がありそうにも思える。