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かいりゅう

海流

宮本 百合子

「文芸春秋」1937(昭和12)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,977 字 · 72 页

青空文庫

た。先輩に当る文芸批評家が、新しい時代の黎明と青春の愛惜と重吉の才能への傾倒を、恋愛的な情熱で表現して重吉を深く考えさせたこともあった。重吉は彼らしい率直さと誠意と熱情とで或る女と性的な経験をも持ったが、現在は彼の内部でそれがひとまず落着を得ていた。現在のところ重吉のそういう方面は単純化されていて、彼が自分の恋愛や結婚に対して、はっきり認めるようになった新しい社会的意義と一緒に、急がず、注意をもってしかも青年らしい溌剌とした自然な関心で異性を眺める状態にいるのであった。

光井は、

「一本松の山本ね、あいつの妹がやっぱり東京へ来ているらしいんだが――知らないかい」

と云った。重吉は二つ三つ瞬きをしたがさり気なく答えた。

「どっか専門学校へ行ってるらしいよ」

特別な関心をはる子にもっているというのではなく、重吉は、はる子の活動の便宜や安全を保護したのであった。

二人の間には、文学談が栄え、やがて光井が、

「きのう、これも主筆にきいたんだが東高へ誰かが撒いたんだってね。講堂まで入ったんだってさ。仕様がないもんだね、みんなぽけーんとしているばっかりだったってさ」