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きえたミジアム

消えた霊媒女

大倉 燁子

「オール讀物 四巻一一号」文芸春秋、1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,605 字 · 31 页

青空文庫

見ると剥げちょろけた塔のような建物を背にして、石段の上に五六人の男が立ったり蹲踞だりしている。

「真中に立っている肥った男は私の夫です。その傍にサン・ハットを持って立っているのがこれからお話しようという物語りの主人公なんですから、ようく見といて頂戴」

三十五六、あるいは四十を大分出ているかも知れない。というのは、何だかこう干乾びてしまったといった感じがするほど痩せ細っていて、ちょっと年格好の見当がつき兼ねたからであるが、よく見ると上品な細面の相当綺麗な顔立なのだ。しかし見た感じは頗るよくなかった。尖った鼻、恐しく神経質らしい凄い眼、その陰鬱な物悲しそうな表情をじっと見詰めていると、何となく私まで引き入れられて、心が寒くなるような人柄だった。

「このお方は何て仰しゃる方?」

「勝田男爵の弟さん」

「まあ、大阪の? あの有名な勝田男爵?」

「そうよ、勝田銀行を御存じでしょう? でも、弟さんは東京にお住居になっていましたの」

なるほどそう云われて見れば、新聞でよく見かける勝田男爵の顔に酷似りだった。

そこでS夫人は静かに語り出した。

「今ではもうすっかり開けているでしょうが、その頃のシャム国は実に野蛮な未開地だったんですよ。