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ふかがわにょうぼう
深川女房
小栗 風葉
「新小説」1905(明治38)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页
その階子段の足音のやんだ時、若衆の為さんはベロリと舌を吐いた。
「三公、手前お上さんの帰ったのを知って、黙ってたな?」
「偽だよ! 俺はこっちを向いて話してたもんだから、あの時まで知らなかったんだよ」
「俺の喋ってたことを聞いたかしら?」
「聞いたかも知れんよ」
「ちょ! どうなるものか」と言いさまザブリと盤台へ水を打っ注けて、「こう三公、掃除が済んだら手前もここへ来や。早く片づけて、明るいうちに湯へ行くべえ」
後は浪花節を呻る声と、束藁のゴシゴシ水のザブザブ。
二階には腎臓病の主が寝ているのである。窓の高い天井の低い割には、かなりに明るい六畳の一間で、申しわけのような床の間もあって、申しわけのような掛け物もかかって、お誂えの蝋石の玉がメリンスの蓐に飾られてある。更紗の掻巻を撥ねて、毛布をかけた敷布団の上に胡座を掻いたのは主の新造で、年は三十前後、キリリとした目鼻立ちの、どこかイナセには出来ていても、真青な色をして、少し腫みのある顔を悲しそうに蹙めながら、そっと腰の周囲をさすっているところは男前も何もない、血気盛りであるだけかえってみじめが深い。
差し向って坐ったお光は、「私の留守に、どこか変りはなかったかね?」