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おんじょうのゆたかななつめさん

温情の裕かな夏目さん

内田 魯庵

「新小説 文豪夏目漱石号」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,980 字 · 6 页

青空文庫

また家庭も至極円満のように思う。近頃新聞など色々のことを書くそうだが、そんなことは何かの感違いだと私は思う。尤も病身のために時には気むずかしくなられたのは事実だろう。子供のことには好く心を懸けられる性質で、日曜日には子供がめいめいの友達を伴れ込んで来るので、まるで日曜幼稚園のようだと笑っていられた。

作から見れば夏目さんはさぞかし西洋趣味の人だったろうと想像する人もあるようだが、私の観たところでは全く支那趣味の人だった。夏目さんの座右の物は殆んど凡て支那趣味であった。

硝子のインキスタンドが大嫌いで、先生はわざわざ自身で考案して橋口に作らせたことがある。ところがその出来上ったインキスタンドは実に嫌な格好の物で、夏目さん自身も嫌で仕様がないとこぼしておられたことを記憶している。

左様、原稿紙も支那風のもので……。特に夏目漱石さんの嫌いなものはブリウブラクのインキだった。万年筆は絶えず愛用せられたが、インキは何時もセピアのドローイングインキだったから、万年筆がよくいたんだ。私が一度、いい万年筆を選んで、自分で使い慣らしてからインキを一瓶つけて持たせてやったことがあるが、そのインキがブリウブラクだったから気に入らなかったそうである。