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こんとんみぶん

渾沌未分

岡本 かの子

「文芸」1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 页

青空文庫

薫との辛い気持も尾をひいているのに、父を見れば父を見るで、また父の気持ちを兼ねなければならない……小初は心づかれが一身に担い切れない思いがする。父は娘を神秘な童女に思い做して、自家偶像崇拝慾を満足せしめたい旧家の家長本能を、貝原との問題に対してどう処置するであろうか。自分の娘は超人的な水泳の天才である。この誇りが父の畢世の理想でもあり、唯一の事業でもあった。そのため、父は母の歿後、後妻も貰わないで不自由を忍んで来たのであったが、蔭では田舎者と罵倒している貝原から妾に要求され、薫と男女関係まであることを知ったなら父の最後の誇りも希望もり落されてしまうのである。

うっかり打ちあけられるものではない……。だが都会人の気の弱いものが、一たん飜ると思い切った偽悪者になることも、小初はよく下町で見受けている例である。貝原もそれを見越して父に安心しているのではないか。案外もろく父もそこに陥ちいらぬとも限らない。陥ちいってくれることを自分は父に望むのか。それを望むよりほか二人の生きて行く道はないのか……。

船虫が蚊帳の外の床でざわざわ騒ぐ。野鼠でも柱を伝って匍い上って来たのだろうか。