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こはん
湖畔
久生 十蘭
「文藝」1937(昭和12)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页
て、なンともはや、お傷しいお姿で、それでみなでお運び申しあげ、只今、控の間へ」
「誰に断って、死骸なンぞ持ち込む。あまり勝手な真似をするな」
「では、岸へ放り投げて置けとでも仰言せられるのですか」
と、犬が怒ったような眼付で俺を見あげた。
「控えろ。湖水に身投げする奴は、年に一人や二人ではあるまい。もう半年も経っておるのに、どうして奥だと言う判定がつくのだ。彼処へ行って、皆にうろたえるなと言え」
「御言葉を返して、失礼では御座りまするが、誰が見ても、紛れのないことで」
と言って動かぬ。
心中に惹起された感情を、なんと名づけていいかわからぬ。真実のところ、俺は陶を殺してはいない。あの時、俺の決心は少しも鈍っていなかッた。俺は陶の胸上に馬乗りになり、少しずつ力を増しながら首を締めあげて行った。なぜ殺せなかッたと言えば、首を締めたこと、俺の手が陶の肉体に触ったことがいけなかったのだ。拙かった。陶は足の指を蟹のように折曲げ、薄眼の中で眸を寄せ、俺にしっかりと抱きつきながら口を開いてア、アと喘ぎ出した。顔には湯上りのような血の色が差し、髪の生際が艶めかしくシットリと汗ばんでいる。