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こはん
湖畔
久生 十蘭
「文藝」1937(昭和12)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页
俺は思わず眉を顰めて、
「それは拙いことをした、そして話でもしたのか」
「イイエ、妾を見ると、目玉をコーンなに剥きだして、後退りして、這うようにして逃げて行きました。幽霊だと思ったんでしょうから、大丈夫ヨ。なにしろ、妾が墓の下へ入るところまで見届けた人なンだから」
「イヤ、なんとも言えぬ。然し、高木なら口止めする自信がある。一寸、行って来る」
二時間ほどの後、小屋へ戻って陶に言った。
「オイ、高木が首を吊っていたヨ。天井の梁にぶらさがっていた」
陶はだまって俺の顔を見返した。高木の口をふさぐために、俺が行って締め殺したと思っているわけでもあるまいが、なにか解せないような顔をしている。しかし別に何も言わなかった。俺は畳の上へあがると、陶の手を弄びながら、
「高木が死んだのを見たら、考えが変った。失踪なぞと生温いことせずに、俺が死んだことにしてしまおうと思うのだ。つまり、高木に失踪して貰って、俺の方は、自殺したことにする、高木の死骸を林の奥へぶらさげて置いて、俺の身代りにするのだ。そうすれば、綺麗サッパリこの世の縁が切れるというものだからナ」
夜の十一時頃、ボートを漕ぎ出して高木の家の裏手に着け、高木の死体を積込んで帰った。