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こはん

湖畔

久生 十蘭

「文藝」1937(昭和12)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页

青空文庫

陶が岸に待っていて二人で運んだ。陶は足を持ち、俺は頭の方を持って、林の奥の方へ入って行った。死体は腹の立つほど重く、手懸りが悪い。月はあるが、木の葉が厚く繁っているので、下草までは届かぬ。茨や山葡萄の蔓が組合い絡合う暗い林の中で不器用な品物を運ぶのは楽でない。俺が転ぶと、陶も転ぶ。気の毒にも高木はいくつ掠傷をこしらえたか知れない。それでももう少しもう少しと、出来るだけ奥へ行った。そんな風にして一時間以上も歩いた。行手は楢の密生林で、それ以上は先へ進まれぬので、この辺でよかろうと繩で輪差をこしらえて高木の首を嵌込み、その端を持って欅の木へ攀登った。手頃な枝に繩を搦んで引っ張ると、陶は高木の足を持ち、低い声でヨイショ、ヨイショと掛声をしながら押しあげた。

下から見あげると、高木は俄に白髪の増えた顳※(「需+頁」、第3水準1-94-6)を銀色に光らせ、観念したような、どこか仔細らしい顔をしてぶらさがっている。骨折が劇しかったので、なにか立派な芸術品でも仕上げたような満足を感じ、俺は懐手をしながら、一刻ぼんやりと眺めておッた。