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ゆしまもうで

湯島詣

泉 鏡花

「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页

青空文庫

「家は、」

「下宿して、」

「どこだ、何というか、うむ、疾く言わんか。」と急き立てられて、トむねをついて猶予って、悪いことをしたと思った。

横顔を一拳、拉げよと撲りつけて、威丈高になって、

「来い、」

蒲柳の公子は生れて以来、かばかりの恥辱を与えられたことをかつて覚えぬ。夜目にこそ見えね色を作して、

「君!」

「馬鹿いえ、君たあ何か、」といいざまに横撲に払く手を、しっかと取ったが声も震えて、

「名を言おう。」

「何い。」

「神月梓というんだよ。」といいながら手を向うへ押遣ったが、吻と息を吐いて俯向いた。学士はここで名乗った名が太くも汚れたように感じたのである。

警官はこれを聞くと、その偽名を語ったゆえんを詰ろうともせず、たちまち声を和げて、

「神月かね、」

「用があるんですか。」と、憤はまだ消えず冷かに答えた。

「さようか、何にしても交番まで、」といって、巡査はその仔細を語った。

ちょうど今しがた、根津の交番で、太く取乱した女が一人掴ったが、神月という人を尋ねるのだとばかりで、取留のないことを言っている。最初その女が路を歩いている時背後から一人跟けて来た男があった、ということを通行人が告げたので、女は身装の可い上に、容色が抜群であるから、掬摸か、何ぞ悪意あって尾行したものであろうという鑑定で、女を取調べる旁その悪漢の手当に巡行