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ゆしまもうで

湯島詣

泉 鏡花

「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页

青空文庫

学士の前に一揖して、

「お邪魔を。実はまた一石願おうかと思って、参ったがな、御音読中でござったで、暫時あれへ控えておりました。何を御覧なさるか、結構なことじゃ。襖越ではござるし、途切れ途切れで文章はよく聞取りませぬが、不思議に先生、今夜の貴方の御声というものは、実に白蓮の花に露が転ぶというのか、こうその渓川の水へ月が、映ると申そうか、いかにも譬えようのない、清い、澄んだ、冴々した、そういたして何か聞いている者までが、引入れられますような、心細い情ないといったように、自然とうら悲しくなりましたが、一体お読みなされたのは。」と思入った風情である。

梓はト胸を突いた様子で、

「希代なことがあるんですよ、お上人、読んでいましたのは御存じの雨月なんですが、私もなぜか自分の声に聞き惚れるほど、時々ぞッぞッとしちゃあその度に美しい冷い水を一雫ずつ飲むようで、唾が涼しいんです。近頃はどういうものか、ものを言うにさえ、唾がねばって、舌がぬめぬめして心地の悪さといったらなかったんですが、まあ、体が半分水になって、それが解けて行くようで、月の雫で洗ったようです。それでいて爽かな可い心持かと思うと、そうじゃない、ここン処が。