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おぼるるもの
溺るるもの
豊島 与志雄
「中央公論」1928(昭和3)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,690 字 · 36 页
マントがほしいなと思った。だが俺はその橋が好きだ。両側に欄干があるきりで、橋の上は広々としていて、がさつな鉄骨の組合せも何もなく、すぐ大空が感ぜられる。
俺は橋の上に佇んで、川の水を、水にうつってる灯を、左手の明るい街を眺めた。それから、ただ電燈がぽつりぽつりついてるだけで、低く黒ずんでる右手の方、河岸伝いの新道を眼で辿った。川霧の交った夜の靄がかけていて、遠くはぼーっとしていた。まだ川の縁に蹲ってる筈の男と女の姿も、靄の中に弱れて見分けられなかった。
そんなことのために、俺は六区の用を――大した用ではなかったが――すっかりはぐらしちゃった。柄にもなく考えこんでしまったんだ。