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せとうちのこざかなたち

瀬戸内の小魚たち

壺井 栄

「あまカラ 3月号 第一五一号」甘辛社、1964(昭和39)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,241 字 · 5 页

青空文庫

この一月の末に、足かけ四年ぶりに郷里の小豆島へ帰った。大して目的はなく、もしかしたら持病になりつつあるぜんそくが癒るかもしれないと聞かされての、急な思いつきだったのだが、帰ってみると顔を合せるほどの人がみんな聞く。

「どんなご用で。どうしに? いつまで?」

実はぜんそく云々ともいえず、墓参りに戻ってきたのですといっても、これまでがなにか用事にかこつけてしか帰っていないものだから、そんな信心者とも信じられない顔をされる。そこで思いつきを言ってみた。

「今生の思い出に、おいしい小魚をたべに帰ってきました」

宿屋さんはさっそく魚の鍋をととのえてくれた。メバル、チヌ、タナゴなど二つか三つ切りにした季節の小魚を、両手を廻したほどの大皿に山盛りしてある。もちろん野菜と一しょにぽん酢でたべる。身のはぜかえるほど新しい魚はいくら食べても飽きず、一座五人ともとうとうその夕食はご飯ぬきになった。おまけにさしみも煮魚もついているのだから、米つぶの入る余地があろうはずがない。たんのうして床についたものだが、横になってからも、まるで友だちの噂をするように魚の思い出話がつきない。