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せとうちのこざかなたち

瀬戸内の小魚たち

壺井 栄

「あまカラ 3月号 第一五一号」甘辛社、1964(昭和39)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,241 字 · 5 页

青空文庫

夏場など軽井沢の山の中でこれはひどく重宝でわが家の自慢料理の一つになっている。大きいほうはこれまたソーメンのだしのもとになり、欠かすことができない存在である。

大体瀬戸内の小魚は味がこまかくてうまいというのは定評だが、どうも小さいほどそれがはなはだしいように思う。小鰺だの、※だの、「おせんころし」という鯛のような形をした、せいぜい五、六センチほどの小魚などは、いちいち料理する手間が惜しまれるほどのチビ魚だが、うまいという点では鯛にもまさると思うほどだ。そりゃあ鯛や鱸には大らかなうまさはあるが、頭から尻尾まで全部たべられるような親身な味ではない。そこへいくと、今はどうだか知らぬが、昔ならバケツ一杯五銭ほどの小鰺やおせんころしを、焼きながらかたわらの酢醤油の丼の中にじゅんじゅんなげこみ、それを骨ごと片っぱしからたべる時のうまさは、海辺の村の住人の仕合せの一つであろう。なお、おせんころしというへんな名は、昔、おせんさんという女がこれを食べすぎて死んだとか、その骨がささって死んだとかでつけられた名前だそうであるが、ほんとの名前は知らない。村のだれに聞いても知っている人はいない。