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ひのついたかかと

火のついた踵

宮本 百合子

「中央公論」中央公論社、1922(大正11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,781 字 · 34 页

青空文庫

みさ子 ――私は、ちっともそんな風には考えなかったわ。私の苦しみは、私の弱点? 私は、ただ、もとから種々なことを話して来た友達に、自分の心持ちを云っただけだのに。――

奥平 つまりそれほど、心の親しみが深いということになるのだ。離れ難く思うからこそ、どんなに境遇が変っても、その友情だけは、保って行こうとする。――(堪え難いように、ばしばしと)私は、はっきり云って置くがね、決してあなたの重荷となる積りはないのだ。私はいつでも、悦んで、あなたに自由を与える。よく考えて、遠慮はいらないから、自分の行きたい道を進めばよい。ああいうこともあった、と私は万事を、過去に埋めてしまおう。それが一番いい。私には――私の書斎がある。……

みさ子 (涙をこぼし)そうよ! 貴方には貴方の書斎がある。だから、そんなことをおっしゃれる。自分が、どんな大間違いをしているか、考えようともなさらないで、よく貴方は、そんなことがおっしゃれるわね。……私には……私には貴方っきりほか、ありはしないわ。何も、ありはしないわ。だからこそ、貴方になんか、相手にもされない苦しみをもするのじゃあないの。