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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

ちょっと、とぎれた。突風のように嗚咽がこみあげて来たのを、あやうくこらえた。「やっと、僕たち、なんにも知らなかったのだということが判って、ひとまず釈放というところなのです。ひとまず、ですよ。これから、何か事あるごとに呼び出されるらしいのだから、あなたも、その覚悟をしていて下さいね。あなたは、からだも、まだ全快じゃないのだし、僕が、責任を以て、あなたの身柄を引き受けました。」

「すみません。」ふたたび、消え入るようにわびを言った。

「いいえ。僕のことは、どうでもいいんだけど、」青年は、あれこれ言っているうちに、この一週間、自分の嘗めて来た苦悩をまざまざと思い起し、流石に少し不気嫌になって、「あなたは、これからどうします? 僕の下宿に行きますか? それとも、――」

ふたりは、もう帝劇のまえまで来ていた。

「入舟町へかえります。」入舟町の露路、髪結さんの二階の一室を、さちよは借りていた。

「は、そうですか。」青年は、事務的な口調で言った。いよいよ不気嫌になっていた。「お送りしましょう。」

自動車を呼びとめ、ふたり乗った。

「おひとりで居られるのですか。」

さちよは答えなかった。