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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

「やっぱりそうだ。だけど、あなたは、まだいい。たった一日だ。おれは、かれこれ、一年になります。三百六十五日。そうだ。あなたの三百六十五倍も、おれはあの女に苦しめられて来たのです。いや、あの女には、罪はない。それは、あのひとの知らないことだ。罪は、おれの下劣な血の中に在る。笑って呉れ。おれは、あの女に勝ちたい。あの人の肉体を、完全に、欲しい。それだけなんだ。おれは、あの人に、ずいぶんひどく軽蔑されて来ました。憎悪されて来た。けれども、おれには、おれの、念願があるのだ。いまに、おれは、あの人に、おれの子供を生ませてやります。玉のような女の子を、生ませてやります。いかがです。復讐なんかじゃ、ないんだぜ。そんなけちなことは、考えていない。そいつは、おれの愛情だ。それこそ愛の最高の表現です。ああ、そのことを思うだけでも、胸が裂ける。狂うようになってしまいます。わかるかね。われわれ賤民のいうことが。」ねちねち言っているうちに、唇の色も変り、口角には白い泡がたまって、兇悪な顔にさえ見えて来た。「こんどの須々木乙彦とのことは、ゆるす。いちどだけは、ゆるす。おれは、いま、ずいぶんばかにされた立場に在る。