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かそうこくふうけい

火葬国風景

海野 十三

「帝都日日新聞」1935(昭和10)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,334 字 · 37 页

青空文庫

そして頭には、宗匠の被るような茶頭巾を載せ、そのくせ下は絹仕立らしい長い中国服のような外套を着ていた。そして右手には杖をつき、歩くたびにヒョックリヒョックリと足をひいていた。

「やあ、――」

と甲野八十助は、そのときこの奇妙な男に声をかけたのだった。彼は至って顔まけのしない性質だったから……。

「いよオ――」

と相手は口辺に更に多数の醜いしわの数を増しながら、ガクガクする首を前後に振り、素直に応じたのだった。

八十助はそれで満足だった。それ以上、何を喋ろうという気もなかった。そのまま、この知人と別れて、同じ人混みをズンズンと四谷見附の方へ流れていったのだった。

(あいつは、誰だったかナ)

八十助には、いま挨拶を交した奇妙な男の素性を思い出すことが、何だか大変楽しく思われて来た。それでソロソロこの楽しい一人ゲームを始めたのだった。

だが、思う相手の素性は、いつまで経っても、彼の脳裏に浮びあがりはしなかった。

「誰だったか。あいつの素性よ、出てこい、――」

八十助は、小学校の友人から出発して、中学時代、大学時代、恋愛時代、それから結婚時代、さらに進んで妻と死別した後の遊蕩時代、それから今の探偵小説家時代までの、ことごとくの時代の中に、彼の奇妙な男の姿を探し求めたけれど、どうもうまく思い出せなかった。