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かそうこくふうけい
火葬国風景
海野 十三
「帝都日日新聞」1935(昭和10)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,334 字 · 37 页
甲野八十助
「はアて、――」
と探偵小説家の甲野八十助は、夜店の人混みの中で、不審のかぶりを振った。
実は、この甲野八十助は探偵小説家に籍を置いてはいるものの、一向に栄えない万年新進作家だった。およそ小説を書くにはタネが要った。殊に探偵小説と来ては、タネなしに書けるものではなかった。ところで彼は或る雑誌社から一つの仕事を頼まれているのであるが、彼の貧弱な頭脳の中には、当時タネらしいものが一つも在庫していなかった。逆さに振ってものみ一匹出てこないという有様だった。苦しまぎれに、彼はいつもの手で、フラリと新宿の夜店街へ彷徨いいでた。いつだったか彼はその夜店街で、素晴らしいタネを拾った経験があったので、今夜ももしやというはかない望みをつないでいたのだった。
「はアて、あいつは誰だったかナ」
甲野八十助は、寒い夜風に、外套の襟を立てながら、また独言をいった。
彼はいまそこの人混みの中で、どこかで知り合ったに違いない男と不図擦れちがったのだった。その男というのがまた奇妙な人物だった。非常に背が高くて、しかも猫背で、骨と皮とに痩せていた。眼の下には黒い隈が太くついていて、頬には猿を思わせるような小じわが三四本もアリアリと走っていた。