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てん
点
小川 未明
「新天地」1909(明治42)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,063 字 · 17 页
翁は今迄、生徒に対して、数学を教えるのにも、ゆったりとした調子で優しく教えたのが、全く口早に何をいうのか分らなくなって折々は独りで腹を立てて、独り口の中で何かいって室の中を歩き廻ることがある。――翁の身形は、全く僧侶になり変ったのだ。この頃の翁は、日曜日になって教壇に立っても、暗黒とか、罪悪とかいうことを口ぎたなく罵るのみであった。
木枯の吹く寒い日に、計算翁は例の如く黒い服を裾長く地面に引摺って、黒頭布を被って、手に聖書を持って、町の中を右左に歩き廻った。而して、町端の寺などに行って、落葉の降る墓場の中に立って、足下のその名も知らない冷たな墓石を撫て考え込む。
そうかと思うとまた聖書の一節を口早に叫んで、次の墓に行てまたその冷たな墓石を撫で、何か口の中で言っている。また気を揉むようにその次の墓石に行って、冷かな石の面を撫でて頭を傾げた。こういうように幾つも幾つもの墓石の前に立っては同じことをやっているうちには、いつしか気が静ると見えて、また木枯の吹き荒ぶ町の中を黒い服を地上に引摺って、蔦の絡んだ白壁の教会堂の方へと帰って行くのだ。
町の人々は、いつしか翁を気が狂ったと言い出した。