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てん

点

小川 未明

「新天地」1909(明治42)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,063 字 · 17 页

青空文庫

又親や、兄弟があるかと問うても、ただ「無い。」といって余のことは語らなかった。……

嵐が戸外に吹き荒んで物凄い晩であった。赤目のちぢれ髪の跛がしんとした真夜中頃、扉を細目に開けて、広間を覗くと、冷かな風が隙間を漏れて来る。その大広間の裡に一人翁は黒服を身に纏って半白の髭を生し、頭に黒頭巾を被って顔色は青ざめて、幽霊のように窶れて眤と教壇に向って真直に何やら、一定のものを見詰めていた。前の机には書物が伏せてあった。この円い大きなテーブルの中央には、僅かに一本の蝋燭が点っているばかりであった。その火影は寒さに凝って、穂尖が細く、心が赤くなって、折々自然にゆらゆらと閃めくのが、翁の姿を朧気に照していた。四方の壁際までにはやっとその光りが泳ぎ着く位で、四囲は灰色の壁が朦朧と浮き出てストーブの火もいつしか消えていた。硝子窓にさらさらと落葉が当って轟々と北風が家を揺って、その毎に、かたんかたんと窓の障子が鳴るのであった。――赤目の女は暫時扉の隙から見守っていたが、容易に翁が身動きもせずに熟としているので、その儘音を盗んで扉を閉めて、自分等の室に歩みを返して眠てしまったという。