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てん
点
小川 未明
「新天地」1909(明治42)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,063 字 · 17 页
一日、空が暗く掻き曇った日にこの町で信者の牛肉屋の娘が死だ。――急に病んで死んだのだ――翁は使をうけて早速出掛けた。――長い黒服を引摺って黒頭巾を被って、手に小形の聖書を持ってその家を訪れた。両親や、親戚やが枕許に取り巻いて泣いている。翁は、早速用意してあった大きな十字架の上に娘を仰向に臥させた。――鍛冶屋から五寸釘を五本買って来るように命じた。死んだ少女の黒髪は房々として、額を掩って、両眼はすやすやと眠るように閉じている。顔色は、蝋のように白かった。翁は、自から大きな鉄槌を取り上げて、少女の両手を拡げさせて、動脈の打つ手頭のあたりへ五寸釘を打ち込んで、白木の十字架に打ち附けた。がんがんと釘が真白な、しなやかな手頭を貫いて、下の白木の十字架に打ち立つ時、一同周囲に見守っている親、親戚は等しく見るに見兼ねて眼を掩うた。中にも父親は歯を喰いしばって顔を背けた。母親は、「ナゼ基督教などにしたものか。」と後悔した。計算翁は其様ことに頓着なく、両手をしかと十字架に打ち止めてしまった。――かくて両足も足頭のあたりから、がんがんと打ち貫いた。重たらしい陰気なこの鉄槌の音は低い、暗い空に悪強く響くようだ。