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むざんやな
無惨やな
久生 十蘭
「オール讀物」1956(昭和31)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,601 字 · 16 页
といって部屋から出て行った。
又内が待っていると、間もなく、蔵人はとってかえし、又内の膝ぎわのギリギリのところへ詰め寄るなり、
「お手前は、お家の仇。そのままにはしておかれぬ」
と切り声を掛け、小手も動かさず、いきなりに抜きつけた。又内は狼狽して、
「無惨やな。いかなる次第で、狼藉に及ばれる」
と叫び、鯉口四五寸抜きあわせるのを、蔵人、身を反らし、又内の右手を肱の番いから切って落す。
「これはしたり」
と、よろばいながら立ちかけるところを、袈裟掛けにし、乗りかかって喉を払う。
蔵人は又内の絶命するのを見届けると、風呂場へ行って返り血を浴びた衣類を脱ぎ捨て、顔を洗い、手足を清め、用意してあった帷子に着かえ、なに気ない体で書院に戻った。
「又内どのは、奥で家内にお逢いなさっていられる。民部左衛門どの、この間に、用談をすませましょう。主水どのは、ご退屈でもあろうが、いま少々、お待ちください」
主水は縁に出、柱に凭れて扇子をつかいながら、
「わたくしめになら、ご斟酌はいらぬこと。風に吹かれて、のどかに休息しております」
と涼しげな顔で会釈をかえした。
蔵人は民部左衛門と肩をならべて、まだ、いく間ともなく座敷を通り、北側の小間に連れこんだ。