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むげつものがたり
無月物語
久生 十蘭
「オール讀物」1950(昭和25)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,485 字 · 36 页
泰博が殺されたとき、さる府生が役所で悼みをいうと泰文は、
「やっと二人だけだ、祝辞を述べてもらうにはまだ早い」
と毒々しい口をきいたということである。
泰文ほど上手に刺客を使う男も少ないので、国吉と泰博は泰文が人をやって殺させたのだという風説が立った。「京草子」の作者もそれらしいことをにおわせているが、これは信じにくい。泰文は時流に適さない異相のせいで、ことさら残酷なことを好む変質者のように言伝えられているが、人をやって自分の子供を殺させるようなことまではしなかったろう。粗暴な振舞いや、思いきった悖徳異端の言動が多く、妻や子供らに酷薄な所業をしたが、それは考えるような悪質なものではなく、実のところは、なにか変ったことをしでかして、同時代の人間をあっといわせたいという要求から出ていると見る向きもある。残忍も無慈悲も、おのれを見せびらかし、自分というものを世間にしっかり印象づけたいという欲求によることなのであるから、風説どおりに人をやって子供たちを殺させたのなら、泰文がそれを吹聴もせずにおくわけはないからである。
国吉と泰博が陋巷で変死したとき、葛木は十八、花世は十一、四男の光麻呂はまだ六歳でしかなかったが、上書の件以来、泰文は猜疑心が強くなり、子供らをいっしょにおくと、ろくなことをしないというので、葛木と