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むひょうじょうのひょうじょう

無表情の表情

上村 松園

「大毎美術 第十六巻第三号」1937(昭和12)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,564 字 · 3 页

青空文庫

◇

私は前かたから謡曲を何よりの楽しみにして居りまして、唯今では家内中一統で稽古して居ります。松篁夫婦、それから孫も仕舞を習っているという工合で、一週に一度ずつは先生に来て頂いているという、まあ熱心さです。

家の内の楽しみもいろいろあります。私や松篁など、絵のことはそれは別としまして、茶もあれば花もあり、また唄いもの弾きもの、その他の遊芸などもありますが、その中で謡曲、能楽の道はなんといっても一とう物深く精神的でもあり、芸術的でもあって飽きがきませんのみか、習えば習うほど、稽古を積めば積むほど娯しみが深くなってゆきまして、大業に申せば、私どもの生活のすぐれた糧となって居ります。

◇

能楽に用いる面ですが、あれは佳いものになると、よく見れば見るほど微妙なもので感心させられます。名人達人の作になるものなど、まるで生きている人間の魂が、そこに潜んでいるのかと想われるほどのものです。

そのすぐれた面を着けて、最もすぐれた名人があの舞台に立つと、顔上面なく、面裡人なしとでも申しましょうか、その面と人とが精神も肉身も合致合体、全く一つのものに化してしまって、さながらに厳然たる人格と心格を築き出します。