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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
かなたへ去ってしまったように思える、そういう感じはしないか」
「絵などを描いていると妙なことを考えるものだ」と渡貫が苦笑して云った、「しかしそう云われてみると、慥かにそんな感じはするようだな」
「それとも」と庄野が云った、「そういう輝かしいものは、初めからなかったともいえるのではないか」
「いや、思いだしてみればわかる」と梶本はそっと眼を細めた、「――おれたちはここで、この屋敷の広庭で誓ったこともある、そうだ、広庭で火を焚きながら、焚火を囲んで酒を飲みながら、いまに天下を取ってみせると誓った、無能な重臣たちを放逐して、藩の政治を新しく、根本から建て直すと誓ったのは、庄野や死んだ村野だったろう、領内の耕地や道路について、また工業農産業について、夢のような計画に熱中した井島頼母たちがいた、おれは絵師になりたかったが、みんなそれぞれの野心を語りあい、必ず目的を達してみせようと誓いあったものだ、――あのとき、おれたちの眼に、未来の輝かしさがみえなかったか、おれたちの到達するところに、胸のときめくような名声や栄誉の座があることを信じなかったか」